「サービス残業問題」対策
具体的な8つの手法は?
徹底解説!
1.労働時間管理の見直し
企業には労働時間を管理する責務があります。
労働時間と一言でいっても法定労働時間、法定外労働時間、所定労働時間、所定外労働時間、拘束時間など、多岐にわたっており、労働時間にはそれぞれにおける賃金の時間単価も異なることから、労働時間の分別いわゆる管理がしっかりおこなわれていないことには、結果的にサービス残業問題を引き起こす原因となっていることが多くあります。
労働時間を管理するということは賃金を管理することにもなります。
出勤簿やタイムカードなどもなく、正確な労働時間を把握できていない企業も多く健康障害(精神的なものも含む)を引き起こしている場合も多いことから、しっかりとした勤怠管理からはじめていただき、まずは実態を把握していただきたいものです。
- ちなみに労働基準法第109条では労働時間の記録に関する書類については3年間保存しなければならないとなっております。
その中でも一番多いケースですが…
そもそも割増賃金の計算方法をまちがっていませんか?
賃金には様々な性質があることを認識していただくことにより、今まで無駄に支払っていた残業代を少なくすることができます。
- 割増賃金の計算に含まれる賃金を明確にして、含まれない賃金をうまく活用することにより割増賃金の基礎となる単価を下げる効果が見込める。
- すべてに関して就業規則における賃金規程や雇用契約書、賃金明細書にも明記することが前提となっている事項が多いため、見直しが必要である。
ここではあらためて賃金について詳しく見ていきましょう!
時間外労働の種別ごとの割増率
時間外労働種別 | 割増率 |
---|---|
時間外労働 | 25%以上 |
深夜労働 | 25%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
時間外労働+深夜労働 | 50%以上(25+25) |
休日労働+深夜労働 | 60%以上(35+25) |
- 深夜労働=22時から5時までの時間帯に労働させた場合
- 休日労働=法定休日に労働させた場合
時間外手当の計算式をご存知ですか?
時間外手当=基準内賃金/月間平均所定労働時間×1.25×時間外労働の時間
- 月間平均所定労働時間=(365−年間休日)×1日の所定労働時間÷12
割増賃金の計算における労働時間の端数処理は?
労働時間は1分単位で計算することが原則です。
- 但し、以下の場合には例外が認められています。
- 1ヶ月における時間外労働時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。
- 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
- 1ヶ月における割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
- しかし、1日を単位に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは違法となります。
基準内賃金と基準外賃金の区分けはできていますか?
- 基準内賃金=割増賃金の算定の基礎となる賃金
- 基準外賃金=割増賃金の算定の基礎とならない賃金
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(結婚祝金など)
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 例えば、「住宅手当」の名称であっても、全員に一律に定額で支給される等、住宅に要する費用に応じて算定されない賃金は除外賃金にあたりません。
営業手当を基準外賃金としたい場合
書面化することで可能となる場合があります。
- 就業規則(賃金規程)に明記する
- 雇用契約書に明記する。*時間数や手当金額
- 給与明細に明記する。 *時間数や手当金額
以上のことから、労働時間と賃金には密接な関係があることはお分かりいただけたと思います。そこで労働時間と賃金をうまくコントロールすることがサービス残業対策にもなります。
- 労働時間管理や賃金設計についてのご相談は…
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2.所定労働時間の見直し
所定労働時間と法定労働時間があるのをご存知ですか?
- 所定労働時間
- 会社が独自で定めた労働時間
- 法定労働時間
- 労働基準法で定められた所定労働時間の上限時間
- 現在の労働基準法で原則ですが、1日8時間以内、1週間40時間以内の法定労働時間の範囲で会社が所定労働時間を定めています。
所定労働時間≦法定労働時間
法定内残業に割増賃金を支払っていませんか?
所定労働時間が7時間の場合には、法定労働時間の8時間との差である1時間について割増賃金は不要です。1時間分について通常の賃金を支払えば事足ります。給与計算過程を一度確認されてみてはいかがでしょうか。
所定労働時間の見直しの際に注意すべき点
所定労働時間を延長すると、結果的に拘束時間も延び、出勤時間を繰り上げか、退社時間が繰り下がることになります。また賃金が変更されないとすると、所定内賃金の単価が下がり、如いては残業単価が下がることになります。
これは労働者にとっては、不利益変更になりますので、変更することの合理性や社員の同意が必要となりますので見直しの実施については細心の注意が必要です。
- 就業規則の変更や労働時間管理についてのご相談は…
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3.実態に合った制度の導入
みなし労働時間制 3種類
- 事業場外労働みなし労働時間制
会社が正確な労働時間を把握できない場合に、実態とは関係なく、あらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度であります。
- 1日単位でみなし時間の設定をしなければなりません。
- 導入に際しては、就業規則または労使協定で定めることが必要です。但し、みなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超える場合は、労使協定で定め、労働基準監督署への届出が必要です。
- 営業マンに適用されている会社も多いですが、携帯電話などで使用者の指示を受けながら仕事をおこなっているケースが多く、実際は適用できません。
- 専門業務型裁量労働制
業務の遂行方法や時間配分を社員の裁量に委ねる制度です。導入可能な業種は19業種となっております。
- 1日単位でみなし時間の設定をしなければなりません。また、労働者ごとに定めるのでなく、対象業務単位で定めます。
- 導入に際しては、労使協定で必要事項を定め、労働基準監督署に届出が必要となります。
- 企画業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制と同じ仕組みですが、対象業務が違います。
- 具体的には、以下の事業場が該当します。
- (1) 本社・本店である事業場
- (2) 上記 (1) のほか、次のいずれかに掲げる事業場
- 当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
- 本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場
- 個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理のみを行っている事業場や本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場は、企画業務型裁量労働制を導入することはできません。
- 導入に際しては、労使委員会を設置し、労使委員会で決議事項を委員の5分の4以上の多数で決議し、労働基準監督署に届出が必要です。
- また制度導入後にも定期的(6ヶ月以内ごとに1回)に所定の事項を労働基準監督署長に報告する義務があります。
- 具体的には、以下の事業場が該当します。
変形労働時間制 3種類
一定の期間を平均して週の平均労働時間を40時間以内にすることにより、特定の日または週に8時間や40時間を越えて労働させることができる制度。
- 1ヶ月単位
1ヶ月の期間を平均して週の労働時間が40時間に収まるようにすれば、特定の繁忙日や週の労働時間を延長することができ、閑散日や週の労働時間を短縮することができる。
- 導入に際しては、就業規則や労使協定で必要事項を定め、労働基準監督署に届出が必要となります。
- 1年単位
1ヶ月を超え1年以内の期間に労働時間を調整できる制度であります。季節によって繁閑の差がある場合に最適な制度です。
- 導入に際しては、労使協定で必要事項を定め、年間休日カレンダーを労働基準監督署に届出が必要となります。
- 1週間単位
1週間単位の非定型的労働時間制は、30人未満の小売店・旅館・料理店・飲食店において1週間単位で日々の労働時間を調整できる制度です。そこで、1週の法定労働時間(40時間)の範囲内で1日に最長10時間まで労働時間を延長することができる。
- 導入に際しては、就業規則や労使協定で必要事項を定め、労働基準監督署に届出が必要となります。
フレックスタイム制
社員が1日の始業・終業時刻を自由に決定できる制度。
1ヶ月以内の一定期間(清算期間)内において一定時間労働することが条件。
フレキシブルタイムやコアタイムを設けることができる。
- 導入に際しては、就業規則その他これに準ずるものに、始業終業時刻の決定を労働者に委ねる旨を規定し、労使協定で必要事項を定めます。ちなみに労働基準監督署への届出は不要です。
様々な変形労働時間制度を導入するにあたり、就業規則や労使協定などで定めたり、労働基準監督署への届出が必要だったり、制度によってまちまちです。そこで私共、社会保険労務士が制度導入のお手伝いをいたします。
- 変形労働時間制度導入についてのご相談は…
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4.有給休暇の計画的付与
有給休暇の時効は2年なので期限までに駆け込み消化しようとする現象がよくみられます。そこで、有給休暇の取得について、もし繁忙期に社員が有給休暇を取得したらどうでしょう?同じ部署の他の社員が有給休暇中の社員の分まで仕事が増え、その結果、残業が増えてしまう事態を招くことになってしまいます。そこで、有給休暇を計画的に付与できればどうでしょうか?こういったケースが避けられ、無駄な残業がなくなるのではないでしょうか?
有給休暇について詳しく見ていきましょう!
社員があらかじめ社内規定にのっとり時季を指定し請求する権利はあります。
但し、会社も業務に支障が生じる場合には、その請求された有給休暇の時季を変更することができます。また与えられた有給休暇の時効は2年間ですので、その間に消化しなければ権利は消滅してしまいます。
そういった制度の中で、労使双方が権利を行使し、有給休暇の時季変更を繰り返す事は、何も得るものもない意地の張り合いをしていませんか?
そこで有給休暇の計画的付与という方法があります!
計画的付与制度の導入について
- 就業規則にその旨を規定しておかなければならない。
- 労使協定に必要事項を定める(*監督署への届出は不要)
- 5日を超える分のみが対象。(*5日間は本人が自由に取得できる)
- 就業規則や労使協定などへの記載事項についてのご相談は…
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5.時間外労働の手続きの見直し
時間外労働いわゆる残業には承認制度が必要
社員の中には、残業手当を見込んで1ヶ月の生計を立てている者も見受けられますが、そもそも残業というものは、必要に迫られ、やむを得ずおこなうものですので、朝出勤時から退社時間を定時に定めず、2〜3時間後に設定し、のんびりだらだら仕事をしている方が多いのも悲しい現実です。
そこで会社としてはその残業が果たして必要なものかどうかを本人の判断だけでなく「残業申請書」により上司の承認が必要ということにすれば、自然と無駄な残業は減少していきます。
残業申請書について
- 残業を行わなければならない理由
- 具体的な業務の内容
- 終了予定時刻
- 終了確定時刻(上司の承認があった場合)
- 承認印の捺印欄
以上の項目を記載して日々申請させるようにし、上司も日々承認業務を行い、残業時間の確定を行うことが必要である。
注意点と利点
日々同じ理由で同じ業務での残業を繰り返している社員については、そもそも職務分掌やボリュームが適切でない場合が考えられるので、会社として業務改善の余地があるものと思われます。また、「残業申請書」を提出しないのをいいことに、必要な残業代までカットしてしまっていることのないよう、実態との検証も必要です。「残業申請書」を活用することによって、上司や部下のコミュニケーションの活発化、業務フローの改善など、普段見逃しがちなことに気づくことが多くあります。
- 残業承認制度導入についてのご相談は…
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6.固定残業手当の導入
固定残業手当とは、毎月の残業手当の額を固定することですが、導入する際に一番注意することは、労働者に対して明確にすることです。結果的に弊社は○○手当に残業代は含まれているからとか言ってもダメです!
トラブル回避の為には…
- 固定残業手当は何時間分に相当するのか明示する。
- 基本給などと固定残業手当の額の内訳を明示する。
- 固定残業手当の算出方法。
- 就業規則等賃金規程にその旨を記載する。
- 雇用契約書などにも記載する。
固定残業手当の算出方法
- 基本的な方法
- 基本給を決定。その他の基準内賃金を決める。
- 月平均所定労働時間を決定。
- 時間外労働時間を設定。
- すべてをトータルすると給与支払総額となる。
- 総額から固定残業を逆算する方法
以下の計算式にそれぞれの値を入れると、固定残業代が逆算できます。
総額から計算するので、経営者としては総額人件費の枠内での設定が可能となりますので、こちらの方法をとられる会社様がほとんどです。計算方法はこちらです。
(総支給額−固定残業代)÷1ヶ月平均所定労働時間×1.25×固定残業時間=固定残業代- 総支給額には割増賃金の算定基礎にから除外される手当は除きます。
- 逆算方法を採用する場合の注意点
労働者にとっては不利益変更となりますので、労働者の同意が必要となります。また、この方法では最低賃金に気をつける必要があります。総額が最低賃金以上であっても、基準内賃金が最低賃金を下回ってはいけません。基本給が減額されるので、賞与や退職金などを算定する際に、基本給に一定の係数を乗じるようなケースは、結果として賞与や退職金まで大きく影響してしまうので注意が必要です。賞与などの算定には「基本給+固定残業代」に一定の係数を乗じるといった対応などが考えられます。
この制度は、総額人件費を変えずに安易に導入しやすい制度ですが、逆算項目の基礎となるそれぞれの数値をかなり慎重に設定しなくてはいけません。 それゆえ際限なく固定残業を含んでもいいわけではなく、固定残業手当の制度自体が適合する職種と適合しない職種があるので、サービス残業対策の一環としてとりあえず導入という安易な判断は行うべきではないでしょう!
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7.賞与で格差
経営者からすると「時間=賃金」ではなく、「成果=賃金」としたいのは当たり前といえば当たり前の話ですが、なかなかそういうわけにもいかず苦悩されていることと思います。
そこで、月次給与ではなく、賞与で格差をつける方法があります。
毎月の残業が多い社員の場合には、いわゆる作業効率が悪く、生産性に欠けることから、賞与の査定の際にこういった社員の賞与を低くすることで、月次給与とのバランスをとるということです。
しかし、この方法を用いる場合には、合理的で公平な評価制度がなくてはなりません。経営者が特定の社員に対して漠然と、あいつはいつも残業しているから賞与をカットしておこうとか、合理的な根拠もなく行うのはトラブルの原因ともなりますので注意が必要です。
- 人事評価制度や賃金制度設計についてのご相談は…
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7.振替休日の活用
「振替休日」と「代休」の違いをご存知ですか?
振替休日
休日出勤があらかじめ予測される場合で、事前に休日と労働日を入れ替えること。
割増賃金(休日割増 35 %)を支払う必要はありません。
但し、同一週内で振り替えないと、週の労働時間40時間を越えてしまった場合には、時間外労働の割増賃金( 25 %)を支払わなければなりません。
そこで、できるだけ同一週内での振り替えをお勧めします。
- ここでいう1週間とは、就業規則等で特段の定めをしない限り日曜から土曜までの暦週です。
代休
突発的に休日労働が生じた場合に、後日代わりの休みを与えること。
割増賃金(休日割増 35 %)を支払う必要があります。
但し、法定休日と法定外休日がありますので、代休の場合であっても、労働した日が、法定休日に当たらない場合には、休日労働としての割増賃金(休日割増 35 %)を支払う必要はなく、その週の労働時間40時間を越えてしまった場合には、時間外労働の割増賃金( 25 %)を支払えばいいことになります。
法定休日と法定外休日
労働基準法では1週に1日の休日が確保されていれば法律を満たしていることになります。この休日を法定休日といいます。
但し、就業規則などで「法定休日を日曜日とする」と特定されていない場合です。
いわゆる土日週休2日制の会社は土日のうち1日を出勤させても、もう1日が休日であれば、法定休日労働とはならず、休日割増 35 %の賃金を支払わなくてすみます。ただこの場合もその週の労働時間 40 時間を越えてしまった場合には、時間外労働の割増賃金( 25 %)を支払わなければなりません。
以上のように割増率が 35 %と 25 %では 10 %の差がありますので、振替休日や代休、法定休日や法定外休日を正しく理解し運営することで残業代の抑制につながりますので、就業規則などの規程がどうなっているのか、今一度確認され、見直しが必要であれば適時行われることをお勧めいたします。
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